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2016年1月13日水曜日

Wire ギターアンプの配線材について

ギターアンプの内部配線に使用する配線材 ( Wire ) について記載します。
布巻き単芯線にすると音の輪郭がくっきりするとか、ベルデン線は良い音がするとか、様々なうんちくがあちらこちらで出います。それは置いておいて、ここではもっとベーシックな話をします。配線材の太さとその選び方についてです。

配線材の太さをあらわす単位として AWG が良く使われます。AWG とは American Wire Gauge の略です。AWG22 のように AWG の後ろに2桁の数字をくっつけて、配線材の芯線の太さをあらわします。皮膜の太さは含んでおらず、芯線すなはち導線( Conductor ) の太さをあらわしています。

下に表を載せておきます。
この表の見方は左端に AWG, 次の列にその AWG のときの芯線の直径、芯線の断面積、面積倍数 (AWG22を 1 としたとき、その他のAWG は AWG22 の何倍の断面積をもっているか) 、許容電流(単位は A アンペア) です。

日本の部品屋さんでは AWG を使わず 「0.325 スケ」というようにスケという言葉を使われる場合があります。そのときスケとは Square mm のことです。断面積で線の太さをあらわしています。
AWG の太さ
【線材の選択その1】許容電流
上の表の右端のカラムの許容電流とは、その線に流すことのできる電流の最大値です。言い方を換えると「この許容電流以下の電流までなら芯線は耐えられますよ」ということです。許容電流以上の電流が流れる場所に使うと、芯線が発熱し、高音になり、最後は皮膜を燃やしたり溶かしたりした後に切れます。

皮膜がテフロンの線材は高熱にも耐えられ、高電圧にも耐えられます。だからといって芯線の太さを無視して、高い電流を流すと中の芯線は切れてしまいます。つまり、電圧を気にするときは皮膜の絶縁性能が問題となりますが、電流を気にかけるときは芯線の太さに注目する必要があるのです。

ギターアンプの線材選びのまず第一歩は大きな電流が流れるところにそれ相応の太さの芯線の配線材を使うということです。
では大きな電流の流れる場所とは、それはヒーター配線です。ヒーターとは文字通り熱を発生させる部分です。真空管はどれもヒーター配線から供給される 6.3V の電圧を使い、真空管内部のフィラメントを熱してガラス管の内部で電子が飛びやすい状況を作り出しています。
6.3V という低い電圧を使って熱するため電流はたくさん必要となります。
真空管のヒーターが消費する電流
真空管一本あたりで消費する電流の値を列挙したものが上の表です。
この図を見ながら計算をしてみましょう。例えばあなたがデラックスリバーブを作ろうと考えたとします。真空管のヒーター配線に使う線材の太さはどれくらいにすべきでしょうか。
デラリバはパワーチューブ 6V6GTを2本使います。またプリチューブ を 6本使います (12AX7 x4, 12AT7 x2) 
ヒーター配線に流れる電流 = 450mA x2 + 300mA x6 = 2700mA = 2.7A
全部で 2.7A の電流がヒーター配線を流れます。

そこで一番はじめの表を見ます。 AWG 22 の線の許容電流は 2.4A しかありません。これでは細すぎます。AWG20 は 3.7Aまで流せます。約1A の余裕があります。しかし、万一どれかの真空管の内部でショート( 短絡故障)の故障が起こり運悪くヒーターがショートしたら、もちろん安全装置としてのヒューズが飛びますがヒーター配線に1A の余裕しかないとヒューズが飛ぶまでのわずかな時間にヒーター配線が燃えてしまうかもしれません。本来ならヒューズ交換と壊れた真空管交換ですませられるのに、ヒーター配線のやり直しもしないといけなくなってしまうかもしれません。実際のブラックフェースでは さらに余裕をとって AWG 18 がヒーター配線材として使われています。 

ヒーター配線が細すぎた事例
上の写真は過去に私のところへ修理でやってきた某メーカーのアンプのヒーター線です。被服が完全に燃えてなくなっています。
この線の太さは AWG 24 しかありませんでした。このメーカーは自社生産しておらず、アジアの某国に生産を委託しています。オールチューブであるものの、とても安い値段で売られています。
複数の真空管を並列でつないだヒーター配線に AWG24 を選択するなどありえない話です。恐らく生産をしていたアジアの会社はパソコンやその他電子機器などトランジスター回路の経験はあっても、真空管回路についてはど素人なのかな。その辺のところはよくわかりません。

こんな写真を見せられると、「おおそうか、太けりゃいいのか」といってなんでもかんでも太い配線材にする人が出てくるかもしれません。事実そういう人がいらっしゃいました。
全てAWG18 を使いハンダ不良をおこしていたアンプ
上の写真はチャンプです。あるお方がご自分で配線材全てと抵抗・コンデンサー全てをオーバーホールなさったものです。まずはじめに、私のところにメールと電話がきました。「自分で全部するからわからないところを教えてほしい」と色々質問攻めなさいました。忙しかったものの真摯にすべてのご質問に無料でお応えしました。しばらくたってから「完成したものの音が出ない」といってアンプは私のところに送られてきました。
それが上の写真です。問題は緑色の線です。本来はヒーター配線向けの AWG18 のCloth wire です。芯線は撚り線ではなく単芯線です。直径1mmの単芯線はハリガネのように固く、ハンダ付けする際に芯線の温度が上がりにくくイモハンダとなりやすい欠点があります。
真空管のソケットへのハンダ付けは比較的上手くいきます。芯線をソケットの端子にカラメてからハンダ付けすれば温度の問題は起こりにくい。問題は回路ボードのハトメ部分でのハンダ付けでした。ハトメの穴には抵抗やコンデンサーの端子が入ります。その穴に AWG 18 の単芯線がきちっと入れられておらず、上に載せた状態でハンダされていました。そうするとハトメ全体にコテ先が当たらずハンダの温度が不均一なまま固まっていました。
お使いになったハンダコテも温度調整できるタイプではなく、またコテ先もハトメに使う先端が太いものではなく、基板用のとがったものをお使いだったようです。

オリジナルのチャンプのヒーター以外の配線材はAWG22 もしくは AWG20 が使われています。
AWG22 は信号線、いわゆるギター信号が通過する部分に使われます。電流という観点ではアンプの中で最も少ない電流が流れます。
AWG20 は +B (プラス・ビー) といって真空管のプレート抵抗に電源を供給する配線です。
ヒーターの次に多くの電流が流れます。とはいっても最大で 200mAほどです。 

細すぎてもだめ、だからといって太けりゃいいのではなく、適材適所に線材の芯線の太さは選ぶ必要があるのです。















2016年1月10日日曜日

近況

本日、和歌山にお住まいの T さまが奥さまとお二人で我が家にお越しくださいました。所有なさっている 68年製のデラックスリバーブを孫の代になっても使えるような信頼性の高いアンプにしたいとのお考えでオーバーホールのためにアンプを運んできてくださいました。

T さまから最初にお電話を頂戴したのが昨年の7月のことです。それから 6ヶ月間お待ちいただき、ようやく本日アンプをお預かりできた次第です。本当に申し訳ないことです。
お土産のお醤油とポン酢
お土産に湯浅醤油をくださいました。和歌山は醤油の発祥の地とのこと。この湯浅醤油はうちのかみさんによると旅行のときの観光スポットにもなっている有名なところなのだそうです。お待たせしていたにも関わらず、有難いお土産まで頂戴し、小汚い我が家に足をお運びくださいり、申し訳ない気持ちで一杯になりました。

昨年作業させていただきました Twin reverb 135W をご所有の富山の Dさまも奥さまとご一緒にお越しになり、そのときに鱒すしを頂戴いたしました。お心遣いくださり、全てのお客さまに感謝の気持ちで一杯です。

T さまから本日お預かりしたアンプ、いつもどおりながら精魂込めて作業させていただきます。素敵な色合いとしっかりとした仕上がりのアンプカバーがついています。カバーはなんとお母様の手作りだそうです。過去に一緒にバンド演奏していたベーシストは奥さま手作りのアンプカバーを持っていました。いいですね手作りカバー。誰か私用のアンプカバー作ってくれないかなー。
68 deluxe reverb
オーバーホール作業の詳細は当ブログにアップしていきます。

2016年1月9日土曜日

Fender Concert アンプのオーバーホール

【2015 12月9日スタート】
埼玉県のT様所有の Fender Concertのオーバーホールです。
フェースプレートが黒色でその上に白字で Concert と書かれている機種です。

いわゆるブラックフェースではなく、80年代のアンプ、 Concert Ⅱです。Super Champ や TwinreReverb Ⅱと同じで、ポールリベラの設計によるものです。
Paul Rivera は Fender のエンジニアをしており、後に RIVERA アンプを創設した人物です。Fender としてはめずらしくチャンネルスイッチングを取り入れ、クリーンとドライブの 2チヤンネル切り替えのアンプ。

982年から1987年まで生産されました。最近、米国ではこのアンプについて「今まで不当に評価が低かったが、そんなことはなく使い勝手の良いアンプである」というように見直されてきています。

メサブギーが台頭してきた80年代に Fender 社としての対抗策がこの Concert Ⅱ、Super Champ, TwinReverb Ⅱであったということが言えるでしょう。
アンプ・テクの立場からいうと、ハンドワイアード回路であるこちらの Concert Ⅱの方が基板(PCB)を使っているアンプよりもメンテナンスしやすく、配線の耐久性も高く、長く使うことができるアンプであるといえます。

スピーカーにはバリエーションがあり、12インチ1発、10インチ2発、10インチ4発の3種が生産されています。今回のConcert のスピーカーは 12" x1 で、Fender としてはめずらしく Electro Voice 製を採用しています。Fender ロゴの付いている EV スピーカーです。

JPG
Fender Concert front view
このアンプは重い!!! 12インチ一発しか付いていないのに、前回の Twin reverb 135W と同じくらいの重さがあります。実測してみると 31kg ありました。トランスは twin reverb ほど重くはないので、スピーカーの重量が相当効いているのでしょう。

JPG
Fender Concert rear view
お客さまからアンプの症状を書いたメモをいただきました。

JPG-letter
お客さまから届いたアンプの症状
お書きになられている、「リバーブの不具合や音が出ない」以前に、電源が入りません。アンプの電源コードをコンセントにつなぎ、パワーオンスイッチを上げても電源が入りません。ヒューズが切れた形跡は無し。パイロットランプの問題でもありません。ヒューズが飛ぶならまだしも、全く電源が上がりません。
電源スイッチの配線切れならラッキー、そうでないなら最悪は、電源トランスそのものが飛んでいます。どこがわるいのかは、受け入れ検査でシャーシー内部を検査すればはっきりします。

その前に埃が堆積し、汚れたキャビネットのクリーニングからはじめる必要があります。おそらく長い間、使わずにどこかにしまわれていたのではないかと推測します。

JPG
Concert の 回路図 ( schematic )

【1】電源ケーブルの交換

まずはじめに問題なのが電源ケーブル ( Power Code ) です。
×被服が破れている。×端子金属が錆びて劣化し柔らかくグニャグニャしています。
電源ケーブル
コンセント部分がモールド式で被服破れの起こりにくい US 製に交換します。

新しい電源ケーブル
電源ケーブルの内部配線は劣化し、ハンダ部分も劣化しています。

電源ケーブル配線
新しい電気安全基準に準拠するようにアウトレットの配線を外しつつ、内部配線を強化しました。

電源ケーブルの配線
【2】電源スイッチの交換、スタンバイスイッチの交換、整流回路のオーバーホール

×電源スイッチとスタンバイスイッチの接触が悪くなっています。
×またスタンバイスイッチの真下に整流回路が位置しており、コンデンサーがスイッチ端子に触れそうなぐらい近接しています。いつ放電してもおかしくない部品レイアウトです。
電源スイッチ、スタンバイ、整流回路
スイッチを外して手にとると指先に油がまとわりついてきました。おそらく過去にスイッチの接触不良を治そうという意図をもって接点復活剤がかけられたものと推測します。しかしその意図とは裏腹に導電性の油膜によってスイッチの絶縁性能は低下し、スイッチの接触不良そのものも改善していません。

油の付着したスイッチ
スイッチを取り外し

スイッチを取り外したところ
油汚れをきれいに落とし

接点復活剤の油汚れ除去
ダイオードx4 とセラミックコンデンサー x4 で構成される整流回路のオーバーホールを行なった後に整流回路の回路ボードを右にずらして取り付けなおし、

オーバーホール後の整流回路
新しいCarling 製の電源スイッチとスタンバイスイッチを取りつけました。

新しい電源スイッチとスタンバイスイッチ
作業【1】と【2】を行なってようやく電源が入るようになりました。

新しいスイッチ
【3】フィルターキャップのオーバーホール  2015 12/16
フィルターキャップのパンを開けてみるとパンの裏側に電解液が噴出した痕跡がありました。
Cap Pan の裏側
真上から見るとなんともないように見えて

フィルターキャップ
コンデンサーの端子の付け根に電解液が噴出した証拠があります。噴出した後に茶色い飴状に凝固しています。

電解液が噴出した痕跡
最も高い電圧のかかる +B 用電源だけでなく、全てのコンデンサーか電解液が噴出しています。コンデンサーは全く使い物になりません。
デジタル回路であれば閾値以下の電圧になったら回路は直ちに動作しなくなります。ところがアナログ回路であるアンプはまがいなりにも音が出つづけます。そのため、音が気持ち悪いけどまだ使えるという感覚で使用され続けてしまいます。その結果、アルミ電解コンデンサー以外の部分の劣化が加速されてしまう、もしくは壊されてしまう、という悪影響が出ます。このアンプも様々なところに影響が出ています。

電解液が噴出した痕跡
まず全てのコンデンサーを取り外します。一番下に電圧平衡抵抗が見えます。
電圧平衡抵抗
アルミ電解コンデンサーにかけられる電圧の大きさとコンデンサー自身の耐圧の大きさはデリケートです。少しでも高すぎる電圧がかけられると直ちに壊れてしましまいす。理想はかけられる電圧の倍の耐圧をもったコンデンサー使うことです。しかし、これぐらいのサイズで比較的大きな容量を安定的に生産できるアルミ電解コンデンサーの耐圧は500Vぐらいが限界です。そのため、400V ぐらいの電圧のところに耐圧500V を使って、その差100V の余裕でなんとかしのいでいるというのが実情です。 電圧が500V を超えるようなところではコンデンサーを直列つなぎにして耐圧を稼ぎます。直列つなぎにすると一個当たりのコンデンサーにかかる電圧が全体の半分になり、コンデンサーが壊れにくくなります。このときコンデンサーにかかる電圧をきっちりと半分になるように保証するためのものが電圧平衡抵抗です。同じ値の抵抗を直列につないでいるコンデンサーに平行につなぎます。この抵抗の値は Fender では 220KΩが使われます。 Mesa Boogie は 150KΩです。
当アンプは220KΩ抵抗の片側が246.5KΩです。カーボンコンポジット抵抗の欠点は経年変化で抵抗値が高くなってくることです。この抵抗も元々は220KΩだったものが 12% 増加しています。

246.5KΩの電圧平衡抵抗の片側
もう片側は250KΩになっています。2つの抵抗は値が近いほどよいのですが、経年変化で値がバラついています。

250KΩを表示するもう片側の抵抗
経年変化による値の増加が少ない金属皮膜抵抗に交換しました。

新しい抵抗
もう片側も全く同じ値の抵抗に交換しました。ピッタリと217.1KΩです。

同じ値のもう片側の新しい抵抗
新しいアルミ電解コンデンサー( F&T 製 )とデカップリング抵抗( Ohmite 製 )を取りつけました。

フィルターキャップのオーバーホール完了
フィルターキャップのふたの裏側にこびりついていた電解液の痕跡はクリーニングしておきます。

Cap Pan のフタの電解液の痕跡をふき取りました
【4】V4 真空管ソケットの交換

 V4 ポジションのソケットが一見して異常がみられます。
油のようなものが付着しています。
V4 真空管のソケット
取り外して近くで見ると接点復活剤が凝固したものです。接点復活剤は決して真空管ソケットに吹き付けてはいけないのですが……

V4 ソケット
 新しいソケットを配線しなおしました。

新しいソケットの配線

左が新しいソケット
作業【1】から【4】までは一目見て異常のある部分を治しました。
しかし、まだ音が出る状態ではありません。

その理由はスピーカーのボイスコイルが内部で断線しているためです。

アルミ電解コンデンサーが破裂した状態のまま使い続けられ、パワーチューブが異常動作をし、そのストレスでスピーカーが飛んだということになります。出力トランスは一応テスター計測では問題ありません。トランスまで壊れていないことを祈るばかりです。オーバーホールを全て行なって音だしをしてから結論づけます。

スピーカー交換は必須です。ユーザーさまのご希望により今回はアルニコに換えてみたいとのこと。JENSEN P12N をオーダーしました。スピーカーが到着したら交換します。

スピーカーのテスターチェック、ボイスコイルが飛んでしまっています。
ようやく、ここからシャーシー内回路の作業に入ります。
Concert Ⅱの回路
【5】バイアス回路のオーバーホール

抵抗 x 2本とダイオード x 1本で構成されるバイアスの整流回路をオーバーホールしました。
この部分で作られた直流がフィルターキャップ内の小型のアルミ電解コンデンサーに繋がっています。
バイアス回路

バイアス回路オーバーホール後
【6】6L6GC パワーチューブの抵抗交換とソケット交換

パワーチューブ 6L6GC のソケットには 2本の抵抗が付けられています。劣化しており交換が必要です。抵抗を交換すべくハンダゴテをソケットの端子にあてたところ、ポロリとソケットの端子が取れました。2つあるソケットの両方で端子が取れてしまいました。
パワーチューブソケットの抵抗交換
V8 チューブは3番ピンが取れました。

V8 ソケット
 V9 ソケットは5番ピンが取れました。
V9 ソケット
真空管ソケットのピンはハンダ付けの熱で簡単にとれるということはありません。真空管が異常に高い温度で長時間作動し、その熱ストレスにより時間をかけてソケットの端子金属が疲労したものと推測します。新しいソケットに交換したうえで新しい抵抗をつけました。

パワーチューブソケットの交換と新しい抵抗の取りつけ

【7】プリアンプ初段のオーバーホール

ギター信号が最初にとおるプリアンプの初段のオーバーホールをしました。
プリアンプ初段
この部分は【3】で作業したフィルターキャップとは独立したフィルターキャップが回路ボードにあります。これも交換しました。この部分のコンデンサーの容量は 4.7μF でよいため、アルミ電解コンデンサーよりも耐久性が高く信頼性に優れたフィルムコンデンサーが使えます。Solen というフランスのメーカーのものを使用しました。写真の黒くて太い筒状のコンデンサーです。

プリアンプ初段のオーバーホール後
初段のカソードバイパスコンデンサは過去に修理されていました。しかも部品交換するのではなく、後付でコンデンサーを平行に継ぎ足してあります。こういう形の修理はアンプを発振しやすくしてしまいます。取り除き、新しいコンデンサーと抵抗を正規のつなぎかたで取りつけています。

過去のMOD
【8】 クリーンチャンネルのトーンスタック
クリーンチャンネルの Treble, Bass, Middle のコンデンサーを交換しました。

クリーンチャンネルのトーンスタック、オーバーホール前

クリーンチャンネルのトーンスタック、オーバーホール後
【9】ドライブチャンネルのトーンスタックとゲイン段のオーバーホール

ドライブチャンネルのトーンスタックとゲイン増幅段のオーバーホールをしました。

ドライブチャンネルのトーンスタックとゲイン段
こちらの回路も独立したフィルターキャップが使われており、初段と同じく SOLEN のフィルムコンデンサーを使いました。
「あまりきつく歪まず、ドライブチャンネルでもクリーンがきれいな回路にしてほしい、ボリューム、ゲイン、マスターの機能は生かしたい」とおっしゃるお客さまのご要望にこたえて、ドライブチャンネルのゲインを抑え、クリーンからクランチがきれいに出るような回路の値に調合してあります。
ドライブチャンネルのトーンスタックとゲイン段オーバーホール後
【10】リバーブドライバーとリバーブミキサーのオーバーホール

リバーブドライバートリバーブミキサー回路のオーバーホールをしました。

リバーブ回路

リバーブ回路オーバーホール後
リバーブリカバリー回路のオーバーホールをしました。
リバーブリカバリー回路とはスプリングから戻ってきた信号を増幅してリバーブポットに送り出す回路です。

リバーブリカバリー回路

リバーブリカバリー回路のオーバーホール
【11】リバーブミキサーからフェーズインバーター入力までの経路変更

リバーブミキサー回路でミックスされた生音とリバーブ音は、通常の Fender アンプであればフェーズインバーターへ送られます。しかし、当アンプでは一旦 Loop 端子を経由してからフェーズインバーターへ行きます。この Loop へ経由する道筋がちょうどアンテナのような働きをし、アンプ内の発振を誘発しやすくなります。

ループ回路を経由してフェーズインバーター入力へ信号が流れる
お客さまのご了承を得て Loop 経由せず直接フェーズインバーターに行く最短経路で配線しなおし、発振のリスクを軽減しました。こうすると長い経路で失われる信号のロスも減ります。

ループをバイパスしてダイレクトにフェーズインバーターへ行くように MOD
【12】フェーズインバーターのオーバーホール

プリアンプ部分できれいなクリーン音を作り、最終的にこのフェーズインバーターが音質の要になります。
フェーズインバーター回路
パワーアンプの動作を決める部分でもあり、部品の値を変更するのではなく、部品の質をたかめて音質を高めます。この質というのは、決して値段が高いという意味ではなく、適材適所という意味です。

フェーズインバーター回路オーバーホール後
【13】スピーカー交換

注文しておいたスピーカーが US の部品屋さんから届きました。
スピーカー到着

スピーカーの梱包をほどいたところ
キャビネットから壊れている EV のスピーカーを外します。
壊れたスピーカー取り外し
スピーカー交換時はキャビネットの下にあるリバーブ・パンを取り外しておくと取りつけ時にきちんとネジ締めができます。

スピーカー取り外し後
新しい JENSEN P12N を取りつけました。

JENSEN P12N 取りつけ
新しいスピーカー用に新しいスピーカーケーブルも作製しました。 WE 復刻版のケーブルです。最近では、このケーブルが当ギャンプスの定番です。

WE復刻版スピーカーケーブル
スピーカーをつなぎアンプの中間テストを行いました。

スピーカーをつないでテスト
音だしの結果、サウンドはねらいどおり、クリーンからクランチの間をスムーズにコントロール可能です。クリーンチャンネルとドライブチャンネルも少し個性の違う音色が出ています。音圧も十分。

しかし、残念なことにリバーブが鳴りません。
①回路は既にオーバーホール済みです。
②新しいリバーブ・パンで試しても同じことからリバーブ・パンでもありません。
③キャビネットを揺らすとスプリングの揺れは音として感じられます。
以上①②③の理由から
リバーブドライバー回路以降リバーブ・パンまでの間に問題があることがわかります。
アンプのサウンドテスト
【14】リバーブの問題解決

リバーブのドライバー回路は 12AT7 真空管につながり、12AT7 はリバーブトランスがつながれており、そこからRCA ジャックにつながり、リバーブケーブルを介してスプリングにつながっています。

リバーブトランスのチェックを行ったところ、プライマリー巻線の抵抗値は本来1.2KΩであるべきところ、1.9KΩと高くなっています。許容誤差の範囲を超えており交換が必要です。

しかし、それだけではすまないようです。

リバーブトランスとリバーブドライバー 12AT7 のソケット
12AT7 真空管のソケットをよく観察してみると、8番ピンだけ黒く変色しています。
この8番ピンに向けて異常放電が起こったことを意味します。
黒く変色したピンは酸化膜ができており接触不良を起こします。
このソケットも交換が必要です。

おそらく、ことの始まりは、このソケットでの異常つまりは8番ピンに向けての放電です。その異常が災いしてリバーブトランスに波及しプライマリー巻線を劣化させたものと推測します。

12AT7 ソケットの8番ピンの変色
ここはこの周辺部分のオーバーホールを行います。

内側から見たリバーブドライバーとリバーブトランス
12AT7 ソケット、リバーブトランス、RCA 端子を全て外しました。

12AT7ソケット、リバーブトランス、RCA 端子を外したところ

上の上体を外から見た写真
RCA ジャックはアルコール洗浄します

RCA ジャックの洗浄クレーニング
新しい 12AT7 のソケットに交換し、新しいリバーブトランスに交換し、洗浄済みのRCA ジャックを取り付けました

オーバーホール後


上の部分を表から見た写真
リバーブケーブルも劣化しています。

リバーブケーブルとリバーブ・パン
新しいリバーブケーブルに交換しました。

新しいリバーブケーブルを装着
以上の作業をしてテストしたところ、リバーブは蘇りました。

【15】真空管の交換

まずパワーチューブの片方のリテイナーがゆるく真空管をきちっと固定できていませんでした。

V9 のリテイナー
新しいリテイナーと交換しました。

新しいリテイナーに交換
パワーチューブは Electroharmonics の 6L6GC のマッチドペアに交換しました。
元々は GTでした。

EH 6L6GC x2
プリチューブは適材適所で EH と JJ と TAD を使いました。
元は 全て GT

プリチューブ交換
何度か試奏を重ね、V4 ( ドライブチャンネルのゲイン段) に使っていた TAD の音が荒っぽく感じました。いくつか入れ替えてみて結果とした JJ ECC83MG がベストという結論に達しました。

V4 は JJ ECC83MG に変更

ここまでの作業が終わったのが 2016年1月3日のことです。
オーバーホール完了
梱包をすませ 1月4日にお客さまに返送しました。

……

ところが 1月5日のことです。
お客さまから電話があり、「電源スイッチを上げ、その後スタンバイスイッチを上げるとヒューズが飛んだ。新しいヒューズを入れて何度試しても同じ」というご連絡が入りました。

ショック !!! 正月早々落ち込んでもおられず、すぐに返送してくださいますように連絡しました。


2016年 1月7日
【Fuse が飛ぶ問題の解決】

電源スイッチは上がるがスタンバイの時点で Fuse が飛びます。ということは回路図から類推するに少なくとも整流回路とメインフィルターまでは大丈夫となります。スタンバイスイッチ以降の出力トランスと6L6GC パワーアンプさらにそこより先のプリアンプのどこかにショート(短絡) があることになります。
こういう場合に最も危惧されるのが出力トランスです。出力トランスの劣化により内部ショートしていた事例が過去になんどもありました。でもそれらの事例は全てオーバーホール前の状態です。今回のようにオーバーホールを終えて、当方で様々なテストをした時点で出力トランスの劣化や異常はありませんでした。物を見ればはっきりします。

アンプが再び我が家にやってきました。
キャビネットからシャーシーを外し、
ステンバイスイッチ以降の回路を丹念に目とテスターで追っていきました。

あったー
パワーアンプ 6L6GC 真空管の3番ピンに金属の切れ端が引っかかっています。
3番ピンはプレートで450V の高電圧がかかっています。この3番ピンとシャーシーをショートさせています。これが原因で Fuseが飛んでいました。
3番ピンに接触している金属の切れ端
切れ端は先のほうが折れ曲がり、ちょうどくちばしのように端子に引っかかりやすくなっています。

原因となった金属
大きさはちょうどセメント抵抗のような大型抵抗の端子ぐらいです。
酸化皮膜除去はされておらず、当ギャンプスの残した切り屑とは思えないのですが。

ヒューズと金属の切れ端
下の写真は1月4日に当方を出荷したときのパワーチューブ周辺の画像です。
金属の切れ端は近くに落ちていません。
ミステリーです。なんで3番ピンという大事なピンに、あのような形の金属片がひっかかり、しかもシャーシーとショートさせる状態でくっついておったのか???

推理としては以下のように考えるのが自然なのかな。
・過去の修理の時点の金属片がシャーシーのどこかに隠れていた。
・輸送中の振動によってパワーチューブの3番ピンにひっかかった。
・お客さまに着いたところでヒューズを飛ばした。

出荷時のパワーチューブ周り
アンプの全ての健康診断を行い、異常ないことを確認しました。
サウンドテストも問題なしです。

アンプテスト、バイアス測定
シャーシーをキャビネットに取りつけました。
おまじないにシャーシーとキャビネットの境目にシールを貼りました。

シャーシーのシール
電源ケーブルやフットスイッチが暴れないように養生をし、梱包し、
本日 2016年1月9日に発送しました。

発送前のアンプ