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2015年11月26日木曜日

Blues Jr. ( ブルースジュニア ) 音質グレードアップ MOD

Fender の Blues Jr. は手ごろな大きさと重さのアンプです。出力も約20W 近辺のミドルクラスの音量で、スピーカーは 12インチ x 1 発。ライブハウスでも十分使えるオールチューブのギターアンプです。お値段も手頃です。
楽器屋さんに行くとギターの試奏用のアンプとして置かれているところもあります。

そんなお手ごろで使い勝手の良い、ブルース・ジュニア、残念なことに楽器と呼べるレベルの音質にあともう一息のところ、たどりついていません。
「高域が耳に痛い」「音が細い」「弦上の指使いのニュアンスがもっと出てほしい」などなど様々な意見をお持ちの方が多いようです。

基板 ( PCB ) を使っていることから、いきおい「ハンドワイアード化してしまえ」という考えが浮かびます。しかし、ハンドワイアード化せず、なんとか楽器として成立する音質にまでレベルアップできないだろうかと昨年、試行錯誤してみました。結果、今回ご紹介する「 Blues Jr. 音質グレードアップ のMOD 」をすれば使えるアンプになるという結論です。

2014年 7月に大阪にお住まいの村井さまの Blues Jr. Ⅲの MOD を実施いたしました。
1年以上、問題なく稼働し続けているという実績も踏まえ、MOD の内容をみなさまにお知らせいたします。

【 MOD 前の試奏 】
作業前に試奏しました。
以下の感想はきちっと整備されたハンドワイアード・アンプと比較したときのMOD 前の Blues Jr. の評価です。

① 全体的に高域が耳につきます。
  中・低域が出切っていないので高域ばかりが目立つ。
② Middle を少しでも下げると、サウンドが細く・薄っぺらに感じられます。
③ コード弾きのときに各弦の分離が悪い。少し潰れたように響く感じです。
④リバーブの目盛り 3あたりからリバーブの高域音が暴れる感じがします。
⑤リバーブ目盛り 0 にしてもわずかにリバーブ音が漏れて聴こえます。
⑥ノイズレベルが少し高い。どこかの劣化ではなく、
  ほとんどの Blues Jr. のノイズ・レベルはこれぐらい高めです。

JPG Fender Blues Jr. red tolex
Blues Jr. Ⅲ FSR
回路基板は下の写真のように Yellow Board です。
JPG PCB of blues Jr.
Blues Jr. Ⅲの回路
では作業内容を順にご説明いたします。

【 Dismount PCB 】

回路の MOD 作業は写真のようにポット付きの基板に付いているケーブルコネクターを外し、基板のハンダ面にアクセスしやすい状態で行います。完成したら、あとで組み立てなおします。
JPG dismounted PCB
Dismounting PCB
【パワーアンプに供給されるエネルギーの増強】
メインのフィルターキャップはアンプの増幅回路のエネルギー供給源です。
ブルースジュニアのメインのフィルターキャップは 47μF-450V です。
もしもこのアンプの整流回路が整流管を使っているのであればこの値で文句はありません。しかし、このアンプはダイオード整流です。メインのフィルターキャップの容量をまだ上げる余地があります。
メインのフィルターキャップの容量は大きいほどバックグラウンドのノイズを削ることができます。
さらに音質の迫力が゜増します。特に中・低域の迫力が増します。
言葉を変えると、「ダイオード整流なのに 47μFの450V 耐圧 しか付いていない」ということです。おそらくコスト削減のためこの値( 容量と耐圧 ) しか付けられていないものと推測します。
    
JPG main filter cap 47microF-475V
Current filter cap 47μF-450V
容量を倍の100μFにします。耐圧も450V から 500V へと増強し、アルミ電解コンデンサーの劣化を少しでも遅らせて壊れにくくしています。
この基板のスペースに入る大きさのコンデンサーでなくてはなりません。しかも耐圧もじゅうぶんに高くなくてはいけません。色々探した結果 JJ のコンデンサーがぴったりと収まりました。
JJ はスロバキアのメーカーで真空管を生産しているところです。

<脱線情報>
様々なメーカーのコンデンサーの形状と容量・耐圧を検索した結果、この JJ よりも小型だったり、このサイズと耐圧で、もっと大きい容量のコンデンサーは一応名のとおったメーカーでは作られていません。理由は物理的に製造することに無理があるからだと推測しています。たまに値段の安いアンプに、もっと小型で容量も耐圧も高いコンデンサーが載っているのを見かけます。しかし、聴いたことのないメーカー名だったり、メーカー名が印刷されていなかったりした経験があります。もちろんその安いアンプは年数はたっていないのに、アルミ電解コンデンサーが完全に劣化して機能を果たしていませんでした。

JPG +B filter cap upgraded
Modded filter cap 100μF-500V
【 リバーブ音の改善 】
「リバーブ音の高域の暴れ」を少なくし、「ポット目盛り 0 での音漏れ」をなくすために C23 フィルムコンデンサーと R46抵抗の値を微調整しました。(C23 や R46 は回路図上での部品番号です)

JPG Reverb mixer
Reverb mixer Circuit
ハイパスフィルターのコンデンサー値を少し小さくして高域の暴れを防止。
Mixing 抵抗の値を 100KΩから120KΩにして音漏れを防止。
信号と直列につながる抵抗は皮膜抵抗よりもカーボン・コンポジットが勝ります。

Reverb Mixer before the MOD
Reverb mixer after the MOD
【トーンスタックのコンデンサー値の調整による音質改善】
トーンスタックとは Treble, Bass, Middle の各ポットにつながる複数コンデンサーと抵抗で構成される回路のことです。

これらのコンデンサーの値によって、ポット調整できる周波数帯がおよそ決まります。
この作業後に行なう、プリアンプやフェーズインバーターの作業ではアンプ全体の音圧を高めていきます。それらと連動する形でこの部分の修正を行ないます。この部分単体で MOD しても確かに音は変化はします。しかし、効果としては薄くなります。
全ての MOD を同時適用することで少しずつの改善を積み重ね最終的な音質の向上になります。
JPG Tone stack before the MOD
Tone Stack
Treble 250PF を 270PF にし、高域に厚みを加えます。
Bass 0.02μF を 0.068μF にし、低域を増すと共にタイトにします。
Middle 0.02μF を 0.015μF にし、中域を少し増強します。
トレブル、バスはコンデンサーの値を大きくします。対して、ミドルは値を小さくするほうが聴覚上中域が増加して聴こえる仕組みになっています。

Bass の値はこれ以上大きくすると低域が出すぎてしまい、低域の暴れが出たり、ブヨブヨの低音が出たりするように感じます。やりすぎに注意です。ほどほどに。

抵抗も一個交換します。Slope 抵抗 100KΩを 91KΩにします。
JPG Tone Stack capacitors
Tone Stack after the mod
Tone Stack にもうひとつ MOD を入れます。それは Middle Pot の配線の変更です。
JPG Middle pot
Middle Pot の基板側
ミドルポットの裏側の基板側で2つの端子を電気的につないでやります。

JPG Middle Pot MOD
Middle pot の配線 MOD
【プリアンプの音質改善】
前項のトーンスタックで音を分厚くしました。トーンスタックにはプリアンプから信号が送られます。プリアンプから送られる信号が細いままでは効果が得られません。そのため、プリアンプの音をアップグレードします。

C2 と C8 のコンデンサーをオレンジドロップにすると共に、値を約2倍に増やして中・低域を増やします。中・低域を厚くすると相対的に耳につく高域が減少する働きがあります。

R2,R3,R37 の抵抗をカーボン皮膜からカーボン・コンポジットに変更し、カッティング時のプリッとしたダイナミック感を増やします。

上の MOD で中・低域を増強した分、ゴーストノートが出やすくなるのを防止するため、C1 の値をほんの少しだけさげて低域のゲイン調整を行い、サウンドの調和をはかります。

JPG preamp
ブリアンプ回路

JPG Preamp after the MOD
プリアンプ回路 MOD 後
【フェーズインバーター回路】
トーンスタックとプリアンプでは音を分厚くする MOD をしました。
フェーズインバーターはその信号をパワーアンプへ送り出す役目を担っています。
ここでの MOD は音を分厚くするのではなく、プリアンプとトーンスタックでグレードアップされた信号をロス無くパワーアンプに送ることを目的として、コンデンサーと抵抗の値はそのままに、部品のグレードアップをします。安価な部品ではなく上質なコンデンサーと抵抗に変更します。

C15, C16 をオレンジドロップにします。
C11 をセラミックディスクにします。
R20 をカーボンコンポジットにします。

JPG phase invertor
フェーズインバーター

JPG Phase invertor
フェーズインバーター MOD 後
【バイアスの微調整】
Blues Jr.のパワーアンプのバイアスは固定バイアス方式です。しかし、バイアス調整用のポットはなく、2本の固定抵抗により、バイアスの値が文字通り固定されています。

一方で、この抵抗で作り出されているバイアス電圧は通常の EL84 プッシュプルのアンプよりも浅めの電圧となります。そのため、ヘッドルームが狭くなります。パワー管の歪みが早く出るものの、反面クリーン音の迫力が乏しく、音質がピーキーで高域が耳につきやすくなります。

またパワー管は過度の働きをさせられるため、熱をもちやすく、寿命もはやめにきます。
この欠点を補正するために、わずかながらバイアス電圧を深めに調節します。
固定抵抗 R52 の値を 22KΩから 24KΩに変更し、バイアス電圧を上げ、わずかに深めのバイアスにします。以前よりもヘッドルームを広くし、パワー管の寿命もわずかながら伸ばします。 
JPG bias circuit
バイアス回路

JPG bias adjusted
R52 の値を変更し、深めのバイアスに調整
【出力トランス OT の交換】

せっかく回路をアップグレードしてもスピーカーに信号を伝達する出力トランスが貧弱だと効果は半減します。
出力トランスを MercuryMagnetics 製に交換しました。
Blues Jr. のオリジナルに比べ質量は大きくなります。

回路の MOD により音が分厚くなっている上に OTのグレードアップによりさらに信号が大きくなります。するとその分発振したりノイズが大きくなったりする危険性が上がります。
そのリスクを低減するために PT と OT の間に磁気シールドを設けました。
JPG OT
オリジナルの出力トランス ( 左 )

JPG MercuryMagnetics OT
MercuryMagnetics の出力トランス
【スピーカーケーブルのアップグレード】
 OT から スピーカーに行くケーブルは貧弱なものが付いています。
回路をMOD して音質のグレードアップを図り OT もグレードアップしました。ここはやはり AIW 社製の WE 復刻版のスピーカーケーブルを付けるのがふさわしいと考えます。

JPG speaker cable
現状のスピーカーケーブル
新たにスピーカーケーブル・アセンブリを製作しました。

HPG cable comparison
左: オリジナル 右: WE 復刻版
アンプに取り付けて完成です。これでセレッション・スピーカーが存分にその性能を発揮するようになりました。
JPG AIW cable
スピーカーケーブル AIW 製 WE 復刻版
全ての作業を終えて試奏しました。

真空管は一切変えずに、元のままで試奏しました。

a) 音に厚みが増しました。耳につくいやな高域はなくなり、色気が出てきました。
     Treble =5, Middle =5, Bass =5, Volume =3, Master =5
このセッティングから Middle を絞っていっても音がペラペラになることは無くなり、低域の残ったまろやかなサウンドが出ます。
ジャーンとコードを鳴らしたときの迫力と倍音あふれる音色は別物のアンプかと思うぐらいです。

b)コード弾きのとき各弦の分離がよくなりました。潰れた感じは無くなりました。また Blues Jr. 特有のパワーアンプの歪みはきちんと残されていつつもコントローラプルです。ピッキングの強弱への追従反応が良くなりました。


c) リバーブの高域暴れがなくなりスッキリとしました。Reverb 0 でのリバーブ音漏れは極小化しました。

d) 全体のノイズレベルは改善しました。


JPG PCB after the MOD
MOD 後のシャーシー


【最後に】
上記に述べました MOD は、 ギャンプスの長年の技術と経験に基づいたアップグレードです。
基板アンプもこのような地道な作業を行なえば、使えるアンプになるという可能性をお知りいただきたくて、情報提供いたしました。

当 MOD に関しましては、広く一般のお客さまからの受注はいたしておりません。
当 MODは時間と手間がとても多くかかります。
一般的なオーバーホールや修理サービスと同じようには受け付けておりませんことをあらかじめご了承ください。誠に 申し訳ありません。



では良きギターライフを






2015年11月25日水曜日

真空管交換で治せるギターアンプの故障

ひとくちにギターアンプの故障といっても、原因は様々です。
壊れていて交換しないといけない部品もケース・バイ・ケースで異なります。
真空管の交換で治る故障と回路部品の交換をしないと治らない故障があります。
ここでは真空管の交換で治るケースについてお話します。

真空管の交換は簡単です。古いのを抜いて新しいのを挿せばよい。しかし、闇雲に力任せで引っこ抜いたり、無理やりネジ込んだりしては、ピンを折ったり、ガラス管を割ったりしてしまいます。
そういう失敗をしてほしくなくてギャンプスのウェブサイトに
ギターアンプの真空管の交換方法 という記事を掲載しています。

今私のところに修理で来ているアンプのプリ管のほとんどをお客さまご自身で交換なさっています。 12AX7 と 12AT7 計6本のうち、実に3本で、ピンの曲がりが発生していました。お客さまは、私のウェブサイトの記事をご覧になったにもかかわらずピン曲がりが起きています。おそらくグイッと強い力で押し込まれたのではないかと推測します。何かしらヒッカカリがあるような場合は押し込まずに真空管のピンの並びとソケットの穴の位置関係を再度よく目で見て確実に穴とピンが合わさる位置で押し込んでください。
このアンプも、ピン曲がりを修正すれば、すんなりとソケットに入りました。

また、ある日、
「真空管の交換を自分でやって感電したらどうしてくれるんだ」
とおっしゃる方からメールをいただきました。

私の真意は、
「ギターアンプの故障が発生し、大慌てで修理屋さんに送ったら、真空管が交換されただけで返された、にもかかわらず高い修理代金を払った」というようなケースでギタリストの方に少しでもお金を節約してもらいたくて、「もしもご自分で真空管交換なさりたい方には方法はこうですよ」という意味あいで掲載しています。
そうはいっても、あまり細かい作業が苦手で力加減が分からず、ピンをまげてしまうかもしれないというお方もいらっしゃるかと思います。自分で交換するのはめんどうだったり、自信がなかったりのお客さまは修理屋さんに真空管交換の依頼なさることをお勧めします。
お客さまご自信による真空管交換を強制するつもりは全くございません。

以上の主旨をご理解なさったうえでこの先をお読みください。

1. ヒューズが飛ぶとき、真空管交換でなおることもあるケース
電源スイッチをオンにし、次にスタンバイスイッチもオンにした瞬間にパイロットランプが消えたというような場合。以後は電源スイッチをいれなおしてもパイロットランプは消えたままです。
あせるでしょうね。気を取り直してよく考えて、ヒューズボックスにたどりつき、コンセントからプラグを抜いてから、ヒューズを抜いてみると切れている。そこで新しいヒューズを買ってきて入れて見る。プラグを挿して、スイッチオンするとまた飛んでしまう。

この時点で、あと一回だけチャンスがあります。
もう一度コンセントから電源プラグを抜いてください。電源スイッチがオフであることを確かめてから、新しいヒューズを入れます。
次に、パワーチューブと整流管を交換してください。
もしも整流管を使っていないアンプ(ダイオード整流)であればパワーチューブだけを交換します。
たとえばデラックスリバーブであれば整流管の 5AR4 ( 別名 GZ34 ) 一本と 6V6GT,二本です。
もしもツインリバーブであれば 6L6GC 四本を交換します。

そして再度コンセントにプラグを挿して、電源スイッチをオンにし電源が上がるか見てください。電源も上がり、スタンバイを上げてもヒューズが飛ばなければ、今交換した真空管のうちのどれかが壊れていたということです。

もしも真空管交換しても、またヒューズが切れたら、故障しているのは真空管ではなくて内部の電源回路です。その時点ですぐにテストを中断してください。故障しているのはアルミ電解コンデンサーだったり、デカップリング抵抗だったり、ダイオードだったり、時には電源トランスのこともあります。修理屋さんに出すしか手はありません。


以上のことを言い方を変えますと、ヒューズが飛ぶ故障のうち何パーセントかの確率で真空管が故障しているケースがあるのです。
真空管が必ず壊れているわけでもありませんよ。真空管が壊れているケースも時にはあるということを言いたいのです。

2. 真空管のポジションと各々の真空管の役割
下の図は典型的な Fender のギターアンプの真空管ポジション番号( V1 ~ )とそのポジションの真空管の機能・役割について記載したものです。画像はクリックすると大きくなります。アンプの中で各真空管がどういう役割をまかされている真空管なのかを理解なさると、故障したときの目安となります。

【例1.】 リバーブが鳴らないとき
リバーブの機能をまかされているのは、V3 のリバーブドライバーと V4 のリバーブミキサーです。
V3 と V4 を交換してリバーブが鳴り出せばラッキー!!! 真空管故障で済みます。V3 とV4 が同時に壊れる確率は低いので、どっちが悪いかは、また古いのを一本ずつ挿しなおして調べて一本に絞ってください。
真空管交換で治らなかったら、リバーブ・パンが悪いかリバーブ・ケーブルが悪いか、回路が悪いかです。

【例2.】 トレモロが鳴らないとき
ひところ前によくあったのがフットスイッチをつながずにトレモロの Intensity を上げても揺れがでないことから修理依頼なさるケース。フットスイッチをつないでオンしないと鳴り出さないのはブラックフェース 以降、シルバーフェースも含むです。ブラウンフェースはフットスイッチをつながずとも鳴り出します。さすがに当方のウェブサイトでの記述の甲斐があってか、フットスイッチをつながないでトレモロがならないというお方はめっきり減りました。

きちんとフットスイッチもつないでいる、Vibrato のスイッチをオンしたのに鳴り出さないとき、 V5の真空管がトレモロのゆれを作り出しています。 V5 を交換してみてください。V5 交換でなおればラッキーです。V5 を交換しても直らないとき、フットスイッチの接触不良がないか確かめてください。フットスイッチの接触不良もないのにトレモロ鳴らなければ、残念ながら回路の問題です。修理に出す必要があります。

注) 最近、トレモロが鳴らなかったり、時にはスイッチオンにしてある時間が経過しないとトレモロが作動しないというアンプがありました。原因はフットスイッチの接触不良でした。

そんな感じで以下のチャートを参考になさってください。
JPG Tube Chart, Fender
真空管のポジションと役割

次のチャートはギター信号がどういう経路をたどってパワーチューブまでたどり着くのかを、簡略に書いたものです。 Fender アンプの Normal チャンネルにつないだときと Vibrato チャンネルにつないだときとで、ギター信号が通過する真空管が異なります。

【例3.】 Vibrato チャンネルの音は問題ないのに Normal チャンネルだけが、極端に音質低下したというような場合、V1 を交換してみてください。それで治らなかったら修理に出してください。Normal チャンネルはギター信号を V1 で受けて一回目の増幅をし、トーンコントロールとボリュームポットに信号を送り、再度 V1 で2回目の増幅をし、その信号を V6 のフェーズインバーターに送ります。V6 には Vibrato チャンネルの信号も送られてきており、パワーアンプをドライブしています。

【例4.】 Normal チャンネルは何も問題ないのに Vibrato チャンネルの音がおかしい場合、V2 と V4 が交換対象です。リバーブとトレモロについては例1.と例2を参照ください。

【例5.】ノイズが大きくなったとき
いつもよりもノイズが大きくなってしまったという場合、そろそろオーバーホールの時期かもしれません。でも待って、単純に真空管の劣化かもしれません。それは確かめてみないと断言はできません。ノイズは様々な要因で起こります。特に「以前に比べて大きくなった」場合、真空管を含めたあらゆる回路部品が原因となりえます。
ノイズの問題を真空管の劣化により引き起こす場合、全ての真空管がその原因となりえます。
私の場合は、まず整流管を交換してみます。次にパワー管です。そして次にプリ管という順番で図の右側の真空管から左に向かって確認をしています。

ノイズというよりも「ピューーーーヒョロヒョロ」というような変な音が出る場合、マイクロフォニックという症状です。プリ管特にゲインの高い 12AX7 が劣化すると起こしやすい症状です。

壊れていないが付いているプリ管の銘柄を変えてサウンドの変化を見たいときにもこれらのチャートは役立ちます。
Vibrato チャンネルの音をよくしたいと思ってV1の真空管を換えていらっしゃるケースを時折見受けます。正しくは V2 が Vibrato チャンネルのギター信号の入り口です。
JPG Guitar signal path
ギター信号の流れと真空管


下の Fig3. はツイード・デラックスの真空管ポジションと役割です。
ツイード・アンプはギター信号の流れが単純に V1, V2, V3 と流れていきます。そのためツイードデラックス用にはFig 2.のようなギター信号の流れのチャートは作っていません。
JPG Tweed DX tube chart
ツイードデラックスの真空管のポジションと機能


【プリ真空管のタイプ】
Fig 1. と Fig 3. のTube Type のところに互換名を記載しています。
例えば 12AX7 ( ECC83 ) です。12で始まるタイプ名は米国でのタイプ名です。 ECC ではじまるタイプ名はヨーロッパにおけるその真空管のタイプ名です。つまり 12AX7 と書いてあれば ECC83 と同じ真空管タイプであることを示します。
同じようにして、12AT7 は ECC81 です。 

7025 というのは米国での呼び名で、タイプとしては 12AX7 です。12AX7 の高信頼管です。
7025 でも 12AX7 でもどちらも使えます。現行メーカーの中で 7025 として販売しているのは今のところ TAD ( Tube Amp Doctor ) の 7025 です。 EH や Tungsol などの 12AX7 と比較してみると、大して音が良いとか、ノイズが少ないとかの差は見受けられませんでした。

市販されている真空管の中には 12AX7WC のように後ろにサフィックスの付いているものがあります。サフィックスが付いている分、少しづつ特性が違うのですが、サフィックス無しのものと互換です。

【12AX7 と 12AT7 との互換性】
ウェブサイトのあちらこちらで 「12AX7 ( ECC83 ) の代わりに違うタイプを挿して音が変化する。しかもそれらは互換があるから問題ない」というような記述を多く見受けます。
しかし、厳密にいうと回路部品、特に真空管の動作点を決めているプレート抵抗とカソード抵抗は真空管のタイプが変わると大きなストレスを受けることがあります。
言い方を変えますと使用するプリ管の真空管タイプに合わせて動作点を決定するプレート抵抗とカソード抵抗の値が決められて配線されています。

12AX7 用に設計した回路に12AX7 の代わりに使用して全く問題の無いのは
5751と 12AY7( 別名 6072 、なおヨーロッパ名の ECCxx はありません) です。

12AX7 の代わりに 12AT7 をお使いになったり、逆に本来は 12AT7を使う場所に12AX7 をお使いになったりすることは、あまりお勧めしていません。

下の2枚の図は12AX7 と 12AT7 の動作曲線に書き込みをしたものです。
このグラフの縦軸に着目してください。

12AX7 を普通に使った場合、流れる電流は 0 から 3mA の間で動作します。
ところが、12AT7 を普通に使う場合は 0 から20mA の間で動作するのです。
その差は実に7倍の電流の違いになります。
JPG 12AX7 operation curve
12AX7 の動作曲線 0から3mA
つまり、この2つの管は厳密にいうと互換ではないのです。ピンの並びや各ピンに割り当てられたて素子は同じでも、動作するときの挙動、つまらり、回路部品である抵抗にかかるストレスの度合いはまったく異なります。
JPG 12AT7 operation chart
12AT7 の動作 0から 20mA
 12AX7 の代わりに 12AT7  を使ったり、 12AT7 の代わりに 12AX7 を使ったりして、すぐさま何か目に見える問題が起こるとは限りません。しかし、回路部品は確実に余分なストレスを受けています。
過去に、12AX7 でギリギリの動作をするような回路を組みました。12AX7 では問題なく作動していました。そこに 12AT7 を入れて使うという実験を行いました。見事に 12AT7 のガラス管は白濁し壊れました。 プリ管の動作点を決定するプレート抵抗も劣化していました。

【パワー管のタイプ】
ギターアンプに使われるパワー管で代表的なものは 6V6GT, 6L6GC, EL34, EL84 です。

Champ に使われているのが 6V6GT x1本
Deluxe Reverb、Princeton Reverb、Tweed Deluxe は 6V6GT x 2本
Vibroverb、Proreverb、Vibrolux 、Tweed Bassman は 6L6GC x2本
Twin reverb は 6L6GC X4本
Blues Jr. と Pro Jr. は EL84 x2本です。

Marshall 1987 は EL34 x2本
Marshall 1959 は EL34 x4本

VOX AC30 と Matchless DC30 は EL84 x4本

この他に 6550 や 7581 、KT66、KT77 などがあります。

これらの真空管のタイプが異なるものは基本的に別物と考えてください。
各々流れる電流の値が異なります。つまり、例えば 6V6GT 用の回路に6L6GC を載せた場合、設計者の想定よりも多くの電流が流れます。

6V6GT 用のアンプに EL34 の真空管はいれないでください。
アンプの健康上、つまり、トランスや回路がダメージを受ける可能性がとても高い。

では、6V6GT 用のアンプよりも大き目のトランスを積んでいる、6L6GC 用のアンプにEL34を入れる場合は、もうどこかで書いた気がしますが、もう一度書いておきます。
パワー管のソケットの一番ピンが問題になります。
6L6GC は 1番ピンは使いません。( 6V6GT も同じく1番ピンは使いません) そのため、ソケットの 1番ピンに何もつないでないケースと別の目的に使用しているケースとがあります。
Fender のアンプで 6L6GC や 6V6GT を使うものはこの 1番ピンにフェーズインバーターからの信号線を繋いでいます。そして1番ピンと5番ピンの間に1500Ωの抵抗が橋渡しされています。
この抵抗のことを Grid Stopper と呼びます。目的は発振防止です。
一方で EL34 は 1番ピンを使います。この1 番ピンはサプレッサー・グリッドもしくは G3 と呼ばれます。EL34 を普通に使う場合は1番ピンをグラウンドに落とします。
6L6GC 用のアンプに EL 34 をつけたいならば、一番ピンをグラウンドに落とすことが必要です。 fender であれば一番ピンに繋がっていた 1500Ω抵抗とフェーズインバーターからの信号線とをラグ端子などの別の端子を使って配線しなおした後で、一番ピンをグラウンドに落としてから EL34 に交換します。元々一番ピンに何もつながっていないアンプの場合は一番ピンをグラウンドに落とすだけの手間が必要です。

では1番ピンだけが問題なのか、いいえ、電源トランスの容量、電源電圧の電流許容量に余裕がないといけません。さらにヒーター電圧 6.3V の電流許容量も余裕が必要になります。
6L6GC は一本あたり 900mA の電流を消費します。2本使いのプッシュプル・アンプの消費電流は 1.8A( 1800mA)  です。
 EL34は一本あたり 1.5A(1500mA) も消費します。2本使いのプッシュプル・アンプの消費電流は 3A( 3000mA)  です。
プッシュプルアンプを想定した場合、電源トランスの6.3V ヒーター巻線の許容電流にさらに 1.2A の上乗せの余裕がないといけません。
もしも 4本使いのTwin revreb に EL34を使う場合は実に2.4A もの余裕がないといけません。
余談ながら、電源トランスのヒーター巻線はパワーチューブだけでなくプリチューブも使っています。
12AX7 の場合一本あたり300mA 消費しています。

ヒーター巻線の電流許容量に余裕がないのに EL34 を無理やり使うと、トランスのメーカーの保証していない領域で使うことになります。電源トランスが発熱し、内部で絶縁破壊がおき、内部の巻線がきれてしまう可能性がとても大きくなります。

はじめっから、メーカー側で 「6L6GC でも EL34 でも好きなほうを使ってください」といっているアンプは一番ピンをはじめからグラウンドに落としてあるのと同時に電源トランスの巻線の許容電流量に余裕があるアンプということです。

今日はこのへんで。
ではよきキダーライフをお過ごしください。





 








2015年11月4日水曜日

GAMPS Browny G3 の音( YouTube )

GAMPS Browny G3 の音源です。

演奏なさっているのはプロ・ギタリストの田井泰弘さんです。
田井さんのウェブサイト

製作過程で回路に託していた「暖かい音」を引き出してくださいました。